三極管のバイアス処理


 ろんなものに並行して手出ししているうちの一つ、ちょっと思うところあって表題の件について、自分なりにまとめてみました。

 以下、フィラメント・チョークやグリッドまわりのNFB、メータ回路その他についてはいっさい無視し、できるだけ本質が見えるようにしてあります。また注記のないスイッチ・リレーは送受切替のもので、受信時の状態を示してます。

 まずは、世界で一番売れた? ヒースキットのSB220です。電圧印加型、と勝手に名付けさせていただきましょう。


 そしてこちらは日本で一番売れた? 我らがTL-922です。

 これらに共通する問題点として、GKタッチが起きた時電源部などを壊す可能性がある、というのが挙げられます。電圧を直接印加するのではなく、常に抵抗を通すようにするという改善案がネット上でも見られますね。


 ここからしばらくは、その「電圧印加型」をご紹介いたしましょう。

 こちらはソケットが緩いことで有名なSB-2000。型番と同様、ここもSB-220を踏襲されているようです。余談ですがZH1012がどういう規格のものなのか、手持ち資料・ネット上ともに見つけられませんでした。


 こちらは根強いファンの多いHL-2K。ツェナ部分をトランジスタで構成しているところと、ヒューズが挿入されているところ、さらにそのヒューズとパラに抵抗が接続されているところが上述の機種とは異なります。

 この抵抗については、あとに別タイプとして挙げさせていただきます。


 こちらはDrakeのL4B。送信時のバイアスをツェナではなく抵抗で設定しているのも面白いのですが、何よりもカットオフ用の電圧をなんと高圧を分圧して生成している! のが他では見られない例です。確かにここに電流はほとんど流れませんから、回路の簡略化としてはかなり面白いのですが…素人目にはちょっと怖いですね。


 こちらも同じDrakeのL-75。電圧などの関係でしょう、送信時ゼロバイアスとなっていますが受信時のカットオフ用の電圧は、L4Bと同様に高圧を分圧して生成されています。

 12/11追記 : 思いっきり左側のツェナを見落としてました!(^^; ので、一部削除。見落としておいてなんですが、ツェナ越しに電圧をかけているのが他と少し違いますね。


 さて、ここからは電圧を印加するのではなく、アースとの間に抵抗を挿入するタイプをご紹介しましょう。勝手に「抵抗挿入型」と名付けさせていただくことにします。

 まずはHenryの3K-A。カットオフは10kΩ、送信時のバイアスはツェナ、そして万一そのツェナがオープンモードで故障した時は75Ωでバイアスを設定して、なんとか送信を継続できるようになっています。


 ここからしばらくはHenryが続きます。

 こちらはユーザが多いであろう、2K-Classic。手持ちの資料ではツェナと並列の抵抗の値が不明なのですが、それよりもその後ろにヒューズが挿入されているのが3K-Aとは異なります。そしてこのヒューズ、もし切れたらカソードラインに高圧が乗ることになり、非常に危ないですね。


 こちらは1KD-5。順序は異なるものの、状況と危なさは上記2K-Classicと同じです。


 こちらは、個人的に現物があればぜひ入手したい2K-Ultra。残念ながら2K-Classicと同じ状況ですね。


 こちらは4K-Ultra。実際にはツェナがオープンモードで壊れることはあんまりないので、これでも問題はないかも知れません。


 こちらはETOのAlpha77。ヒューズはないですが、端から端まで抵抗がカバーしています。(EBSというのは入力に応じてバイアスを増減する回路で、実際には単純なon/offのスイッチではない)


 だいたい、抵抗を挿入しただけでなんでカットオフ? については追々検証(想像)していくとして、そもそも基本はどうなん? と調べてみましたら、まさに灯台もと暗し、3-500zのデータシートにちゃぁんと掲載されてました。それがこちら。

 シンプルですねぇ


 そしてこちらは、我らが重箱本に掲載されているものです。諸々が考えられてて全く問題ないと思うのですが、ただ一つ、どうせなら左から右までずーっと一つの抵抗でええんとちゃうの? ってスケベ心が芽生えてしまいます(^^;


 それやこれやで僕が一番好きなのが、こちらのSB-1000の方法でして、我が家の922もこうしてあります。さらに、これの右側にヒューズを入れてあれば完璧ではないでしょうか。

 ただ実際のSB-1000では、この抵抗は1/4Wのものが使われています。何もなければ問題ないんでしょうけど、何かあった時ちょっと心許ないので、もう少し容量の大きなものにしておいた方が安心できるかも知れませんね。


 こちらも同じ「抵抗挿入型」なんですが、送受の切り替え時に一瞬カソードが浮いてしまいます。精神衛生的なものと言われればそうかも知れませんが、これはあまり良くないですね。どうしてわざわざc接点をここに持ってきたのか、素人にはちょっと分かりません。


 こちらも同じDentronのもので、同様にc接点が使われているので上述の問題があります。

 余談ですが、SSBとCWでバイアスを違えているのはTL-922でも同じですね。


 では、ここからは「変わり種」をご紹介しましょう。

 まずは国内で相当売れたであろうこちら、FL2100。いやー、これはすごいですね。GGのグリッドはガッチリ接地が基本だと思うんですが、200PF一つで接地されてるだけであとはご覧の通りで…ホント、すごいとしか言いようがないです。


 こちらは後継のFL-2100Z、状況はほぼ同じですね。なるほど(静的な)バイアス設定は簡単そうですけど。


 こちらは個人的には現物を見たことがない、LK-2000。ゼロバイアスで使われているのですが、注目すべきは接続元がフィラメントトランスのセンタータップではない点です。これは直熱管では特に珍しいのではないでしょうか。


 こちらは30L-1。すべて抵抗で、しかもグリッドに挿入する形で設定されています。天下のCollinsさんのなさることですから、問題ないんでしょう。そして、これに準じた? 八重洲のFLシリーズも、素人が想像するような問題はないということなんでしょうね。

 さて、何のためにこんなまとめをしたか、については…いずれまた続編をと思っております。

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JH3FENの思いつくままに - Eimacカタログ (2015年12月11日 00:30)

本棚の隅に、古いアイマックのカタログがありました。 続きを読む

コメント(11)

勉強になります。
続編の公開が楽しみです。

はっはっは、最初に『三極管』の漢字を間違えてたくらいですから、そうそう参考にしていただけるようなことは出てこないと思います(^^;; ただ、こういう観点でのまとめをネット上で見かけませんでしたので、どんなもんかなとやってみた次第です。そもそもこういうの、真空管のリニアアンプを触ろうとするニーズ自体が限られてるでしょうから、需要は限られてるんでしょうねぇ。

 個人的には、抵抗挿入でカットオフについて非常に興味あるところですので、その点について続編を気長にお待ちいただければと思います。

こうやって具体案を並べて頂くと説得力があります。
私も続編を楽しみにしてえいます。

真空管は全く分かりませんが、ヒーターの接続 (ですかね) が直列だったり並列だったり機種によって違うのですね。こうやって並べて見るとド素人なりに面白いですね。

大前さん : 実はこれらは、手持ちの紙ベースの資料から拾っただけなのですが、その範囲でもこれだけ色々あって驚きでした。面白いですねぇ 中でもDrakeの高圧を分圧してたってのはホントにビックリ。
 他にもネット上で探せばもっと色々あるかもとも思ったんですが、まぁ電圧印加型か抵抗挿入型のどっちかやろ、と思ってヤンペしてしまいました。続編は…例によってとたんに卑近な例になってしまうでしょうが、よろしくお願いします。
 それにしても、初期のデータシートでも抵抗挿入型が書かれているのに、なんでわざわざ電圧印加型を採用したモデルが存在するんでしょうね。過渡特性を重視したということかな…なんて想像の域を出ませんが、そのあたりを妄想するのも面白そうです。

 石井さん : よくぞおっしゃって下さいました! その点についてもお分かりいただけるように書いたつもりです。こうやって並べるまでもなく、やっぱりパラ使いのフィラメントは並列の方がいいですよねぇ。

地の果てから帰ってきてます。
3-1000の回路、センターのグラウンドしなくて大丈夫なんでしょうか?
そういうトランスなら、毎週捨てられてますもので。

お帰りなさいませ、お疲れさまです!

 どうなんでしょう、現物を見たことがないので定かではないんですが、もし図面通りでしたらハムが乗ったりしてよろしくないんではないかと思います。これでいいならずいぶんラクなんですけどねぇ〜

 しかしその捨てられるトランス、モッタイナイですねぇ〜 当然プロスペックでしょうし、各種電源にいいんではないでしょうか?(^^;

6T58っていう球のヒータなんです。
トランス二次側のヒータとパラに抵抗をシリーズに接続し、抵抗の中点をグランドに落とすって考えたことがあります。

6T58とはまた面白そうですね! 一本で1kW連続にはちょうどいいかも。いや、僕が使うことはないでしょうけど…早速データシートを保存しました(^^)

 なるほど、オペアンプの仮想グラウンドみたいな感じですね? いやいや素晴らしい発想ではないでしょうか。ゼロバイアス管などの浅いバイアスで動作するものだと難しいでしょうけど、ある程度バイアスをかける必要があるタマなら案外いけそうな気もします。6T58だと5kVで100mAのアイドルでも280Vほどかけないといけませんから、抵抗分圧が充分いけそう。え、そんなに流さない?(^^;


ご無沙汰しています。WWCWお疲れ様でした。
某ローカル局のTL922を修理のためにお預りしておりまして、3KV改造後のバイアス回路図を探してました。ここにあったとは・・感謝感謝!
FL2100は驚きでした。

 宮澤さん、お久しぶりです! WWCWの160mでは良く聞こえ・良く飛ばしていらっしゃいましたね! さすがとしか言いようがありません。

 実は本記事には続編があるのですが、全く放置のまま何年も経ってしまってまして(^^; ただ922に関しては、元回路のような100V直結だとGKタッチなんかに至ったときに電源まわりにまで波及しそうなので、我が家のはちょっと触ってあります。
https://www.2333.net/~ji3kdh/weblog/archives/2012/01/tl922_17.html
 WWCWの時も含めてもう何年もこの922なんですが、幸いこれで何の問題もなく動いているように見受けられます。素人仕事ですがご参考まで(^^)

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この記事について

このページは、ji3kdhが2015年12月 7日(月) 0:04に書いた記事です。

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